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住宅設計海外の住宅間取り

2024.09.13

「モロッコの住宅探訪」伝統とモダンが融合する住宅デザインの世界

「モロッコの住宅探訪」
伝統とモダンが融合する住宅デザインの世界

 

モロッコはアフリカ大陸の最北西に位置する国で、地中海と大西洋に面しています。モロッコはアラビア語で「日が没すること」を意味する「マグリブ」とも呼ばれ、まさに「日出づる国」と言われた日本と対称の位置にある国です。
モロッコは、文化的にも、先住民族とされるベルベル人のベルベル文化、アラブ文化のほか、フランス、スペインなど、さまざまな文化の影響を受けています。
今回は様々な文化的影響を受けた、モロッコの住宅事情や間取りの特徴、そしてモロッコ住宅の独特のデザイン要素について詳しく解説します。
モロッコ建築の美しさや機能性を理解することで、私たちの住まいづくりにも新しい視点を得られるかもしれません。

(1)モロッコの住宅事情と間取りの特徴

 

1. 高騰する都市部の住宅事情

モロッコは急速な都市化に伴い、特にカサブランカ、ラバト、マラケシュといった都市部の住宅価格が高騰しています。
これらの都市部では、アパートメントやマンションが増加しており、住宅価格が上昇しています。
そのため、都市部に住みたい若者や低所得者層にとっては、住宅の入手が困難な状況となっています。
政府も「低所得者向け住宅プロジェクト」や「住宅ローンの整備」など対策を講じてはいますが、供給が需要に追いついていない状況です。
住宅販売のうち、アパート価格の中央値はMAD14,867/㎡(約22万1,300円/㎡)となっています。

2. 住宅様式と間取りの特徴

モロッコ住宅の特徴は、「リヤド」と呼ばれる伝統的な住居形式にあります。「リヤド」とは、住まいの中心に中庭があり、中庭のまわりに部屋が配置されている間取りを指します。

近年、この「リヤド」形式の古い住まいは、モロッコの観光旅行者のためのゲストハウス、民宿施設として修復・再利用され、国際的にも広く知られるようになりました。

モロッコの住宅_リヤド

「リヤド」は都市部の旧市街(メディナ)でよく見られます。建物の中心に配置された中庭には噴水や植物が置かれ、家の中に自然光と風を取り込む役割を果たします。
中庭を囲むように、各部屋が配置されており、プライバシーを重視した構造となっています。
通常は2階建で、家族の生活空間は1階、又は2階にあり、客室が中庭に面して配置されるケースが多いようです。

「リヤド」の屋上はテラスとなっており、ここで洗濯物を干したり、鶏を飼ったり、ソーラーパネルやテレビのパラボラアンテナを設置したり、色々と活用されています。

「リヤド」の内装は非常に豪華です。伝統的なモザイクタイル(ゼリージュ)や木製の装飾、漆喰や石膏の壁だったり、伝統的な生活様式を見ることができます。

また、モロッコには「カスバ」と呼ばれる住居都市も存在します。
「カスバ」の元々の意味は、穀物倉をもった支配階級の城塞、要塞のことで、特徴としては、粘土や泥レンガで造られた集合住宅形式が多く、農村部でよく見られます。

カスバはリヤドに比べて簡素な造りになっており、間取りの例としては、幅11m、奥行き3m程度のワンルーム形式が多いようです。入口部は木製扉で、入って右側にはプロパン、水瓶、テーブルなどがあり、食事や炊事を行う場所となっています。
入って左側にはカーペットが敷かれ、布などが丸められ、就寝用エリアとなっています。

モロッコの住宅_カスバ

 

(2)モロッコの住宅の特徴的なデザイン

 

モロッコの住宅はその独特な装飾・デザインが魅力的です。
それらデザインには文化的背景や歴史的な影響が色濃く反映されています。
ここではモロッコ住宅にみるデザインの特徴をいくつか紹介します。

1. カラフルな幾何学模様 ゼリージュ

モロッコインテリアの代表格はなんといっても、このゼリージュです。細かく切ったタイルを組み合わせて幾何学模様にデザインしたモザイクタイル。
タイルの色は、白、黒、青、緑、黄、赤、茶の7色です。
これらはタイルは、床や壁、噴水、柱などに装飾されます。

モロッコの住宅_タイル模様

2. 窓枠にみる曲線模様

モロッコの住宅窓は、内側開きの観音開きとなっており、ガラス窓が付いています。
窓枠は鉄の柵となっており、これらは固定され動かすことはできません。
これは、防犯対策と考えられます。
この鉄柵が、美しい曲線の幾何学模様でデザイン装飾されており、多様なデザインが、モロッコの伝統的様式として見る人の目を楽しませてくれます。

モロッコの住宅_窓

3. モロッコ絨毯(ベルベルカーペット)

モロッコには「絨毯村」があり、そこでは女性たちがすべて手作業で絨毯を織っています。
ここで織られた絨毯は世界中にモロッコ絨毯として流通しています。
絨毯は羊の毛で織られ、鮮やかな色彩と独特の模様が特徴で、応接間や寝室などの床に敷かれます。
触っているだけで、心地よさ、リラックス、癒しを与えてくれるモロッコラグは、ベルベル文化の象徴とも言えます。

モロッコ絨毯

4. 壁の色

モロッコの住宅によく見る青や緑の色は、地中海やアトラス山脈の自然からインスピレーションを受けたとされています。
モロッコ住宅を見ると、統一感ある色彩により美しい街並みが形成されているのが分かります。
モロッコでは、住んでいる町によって外壁の色が法律で定められており、新築の場合は、壁の色を写真に撮って役所に提出し、許可をとる必要があるようです。

モロッコの住宅_壁の色

5. アーチ型の門や窓

モロッコの住宅では、イスラムアーチと呼ばれる多様なアーチ型の建築要素が多く使用されています。
これらのアーチ型デザインは、建物の入り口や窓、内部の通路や部屋の仕切りなどに使われ、建築全体にエレガントな雰囲気を与えています。

モロッコの住宅_アーチ型

これらの装飾デザインは、モロッコの文化的多様性を反映しており、イスラム、ベルベル、アンダルシアの影響が見られます。
モロッコの住宅は、これらの要素を組み合わせることで、豊かで独特の雰囲気と魅力を持っています。

 

まとめ

モロッコの住宅は、その独特の構造と装飾により、文化の融合と歴史の深さを物語っています。
リヤドの伝統的な住居形式は、現代の都市化の中でも重要な役割を果たしています。
また、ゼリージュのモザイク、アーチ型のデザイン、カラフルな壁面など、モロッコ特有の建築要素は、単なる装飾以上の意味を持ち、気候や生活様式に適応した機能性も兼ね備えています。
今や、これらの要素は現代の住宅デザインにも新たな視点を提供し、伝統的な美しさと実用的要素の融合が試みられています。

 

参考:


建築写真の出典:「unsplash」、「Pixabey」等より