TOPICS

住宅設計海外の住宅間取り

2024.10.11

「インドの住宅探訪」伝統と現代が融合する住まいの特徴とは

「インドの住宅探訪」
伝統と現代が融合する住まいの特徴とは

 

国際通貨基金(IMF)の4月の発表によると、2025年にはインドの名目国内総生産(GDP)が日本を上回り、世界第4位となる見込みです。
また、インドは2023年に中国を抜いて世界最大の人口国となりました。人口増加と経済成長に伴い、インドの住宅事情は大きく変化しており、さまざまな課題を抱えています。
今回は、インドの最新の住宅事情、家賃相場、そして中庭式様式やカラフルな外観など、インド特有の住宅の特徴について詳しく解説します。インドの住宅文化を深く理解し、グローバルな視点から住宅デザインを考えるきっかけになれば幸いです。


(1)インドの住宅事情

 

新型コロナウイルスの影響で一時的に低迷していたインドの住宅市場は、現在は回復基調にあります。特に、都市部の首都デリーを中心に、郊外での大規模なマンション開発が進み、住宅の需要は高まっています。

しかし、都市部では約1870万戸の住宅不足が深刻な問題となっており、2030年までにさらに2500万戸の住宅が必要とされています。このため、インド政府は、低所得者層向けの住宅開発を促進する「Pradhan Mantri Awas Yojana(PMAY)」などの政策を打ち出し、住宅供給の拡大に努めています。

家賃は地域によって大きく異なりますが、都市部のマンションなどでは、物価上昇に伴い、毎年約10%の上昇傾向にあります。デリーの高級住宅街では月額70万ルピー(約126万円)以上となる一方、郊外のアパート(2DK程度)では、月額2万ルピー(約3.6万円)程度となっています。

インドの住宅事情は、急速な経済成長と人口増加に伴い、住宅供給が追いついていない状況です。特に都市部では、安全で手頃な価格の住宅の確保が急務であり、急速な都市化に対応するためのインフラ整備も大きな課題となっています。

(2)インドの住宅の間取り様式と特徴

 

1.  中庭式様式

インドでは、地域を問わず伝統とされている住宅形式に中庭(コートヤード)が重要な要素として含まれています。これは「ハヴェリ」と呼ばれる様式で、特に北インドや西インドで見られます。

中庭は日差しや風通しを確保するだけでなく、家族団らんの場、家族のコミュニケーションの場として重要な役割を果たしています。また、中庭というグリーンエリアを確保することで、空気の浄化や心理的リラックス効果も期待できます。

インド住宅の間取り

2.  シーリングファンの使用

インドの住宅では、暑さ対策としてシーリングファンが一般的に使用されています。シーリングファンは、天井扇とも呼ばれ、大きな羽根を回転させて空気を循環させ、室内の温度ムラを解消する効果があります。

3.  面格子付きの窓

プライバシーを重視する文化から、インドの住宅の窓には面格子が付いていることが多いようです。
面格子とは、窓の外側についている金属製の格子のことです。
これにより、外部からの視線を遮りつつ、風通しを確保しています。また、治安があまり良くないインドでは、治安の意味もあると思われます。

4.  カラフルな壁、外観

インドの住宅は、鮮やかな色で塗装されていることが多いです。
黄色やピンク、青や緑など、鮮やかな色で塗装された住宅が多いのがインドの特徴です。
色にはそれぞれ特別な意味があり、例えば青は神聖な色、オレンジは幸福を運ぶ色とされています。

5. トイレシャワー

インドのトイレには、便器の横にシャワーが設置されていることが一般的です。これは、トイレットペーパーを使わずに水で体を清める文化に基づいています。

6.ベランダと屋根

ベランダも、インドの住宅では一般的な要素です。洗濯物を干したり、くつろいだりするスペースとして利用されます。
また、屋根の形は地域によって様々ですが、割と傾斜のある屋根が多く、雨水を効率よく排出する構造になっています。

現代のインド、特に都市部においては、伝統的な中庭付き住宅は減少傾向にあります。しかし、中庭の概念や機能は、現代建築において様々な形で取り入れられ、その価値が見直されています。
また、文化遺産としての重要性も認識され、保存や再評価の動きも活発化しています。
インドの住宅は、地域、文化、経済状況などによって多様性に富んでいます。伝統的な素材や構造を継承しつつ、現代的な要素を取り入れたモダンなデザイン住宅も増加しています。


まとめ

インドの住宅事情は、急速な経済成長と人口増加に伴い大きく変化しています。都市部では深刻な住宅不足に直面し、政府は低所得者層向けの住宅開発を推進しています。
一方で、伝統的な中庭式住宅の概念は、現代建築にも取り入れられ、その価値が再評価されています。
シーリングファンや面格子付きの窓、カラフルな外観など、インド特有の住宅デザインは気候や文化を反映しています。
今後は、伝統と現代のバランスを取りながら、安全で手頃な価格の住宅供給とインフラ整備が課題と言えるでしょう。

 

参考: