
「モンゴルの住まい探訪」
2026年の住宅市場と住まいの知恵
モンゴルと聞くと、広大な草原や遊牧民の暮らしを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
日本とは相撲などを通じた文化交流も盛んですが、現地の住宅事情はあまり知られていません。
2026年、首都ウランバートルでは住宅価格の上昇や住宅不足が続き、政府による優遇住宅ローンやゲル地区の再開発が進められています。
では、厳しい冬を乗り越える伝統的なゲルや戸建て住宅には、どのような間取りや工夫があるのでしょうか。
今回のブログでは、最新の住宅価格・賃料から住まいの構造、暖房・断熱、暮らし方までを解説し、日本の住宅設計にも生かせるヒントを探ります。
(1)2026年最新のモンゴルの不動産と住宅事情|ウランバートルの価格・賃料・利回りを解説
モンゴルの首都ウランバートルでは、住宅価格の上昇が続いています。
一方、現地の住宅事情や不動産投資の実態は、日本ではあまり知られてはいないと思います。
ここでは、2026年10月時点で確認できる公的統計や現地報道をもとに、①住宅事情の現状、②政府の対応、③価格・賃料・利回りの実態を整理しました。
※円換算は「1トゥグルグ=約0.044円」「1ドル=約158円」で計算しています。為替は日々変動します。
①モンゴルの住宅事情の現状
■人口の集中と「ゲル地区」
モンゴルの人口は約350万人で、その約半数が首都ウランバートルに集中しています。冬の寒さが厳しいため、断熱や暖房設備の整った集合住宅への需要が高くなっています。
ウランバートルの住宅事情を語るうえで欠かせないのが、市街地を取り囲むように広がる「ゲル地区」です。
ゲルとはモンゴル伝統の移動式テント住居です。地方から首都へ移り住んだ人々が、区画された土地にゲルや簡易な平屋を建てて暮らすうちに、巨大な低層市街地ができあがりました。
人口は約140万人で、その約60%がゲル地区に暮らしています。
上下水道や集中暖房、舗装道路が行き届かず、暖房には石炭ストーブが使われています。
冬は氷点下30度を下回る日もあるため、断熱と暖房は住宅の質を左右する大きな課題です。
■住宅不足と若い世代の購入難
住宅の需要は供給を大きく上回っています。
政府系の会合では、住宅を必要とする世帯は50万~60万世帯と推計されています。
一方、価格の上昇に所得が追いついていません。
現地メディアによれば、アパート価格は物価や所得の伸びを上回るペースで上昇しており、若い世代が初めて住宅を買うのは難しくなっています。
■二極化する市場
地区ごとの差も大きくなっています。
中心部のスフバートル区では高所得層向けの高級物件の開発が進み、郊外には比較的手頃な価格帯の物件が残っています。
②モンゴル政府の対応
■ 優遇住宅ローンと「順番待ち」
政府と中央銀行は2013年から「住宅抵当ローン・プログラム」を実施しています。
2026年時点の金利は6%(2020年10月に8%から引き下げ)、返済期間は最長30年です。
人気が高く、資金供給が需要に追いついていないとも報じられています。
一般の銀行ローンの新規平均金利は2026年2月時点で約13.6%と高く、優遇ローンに申し込みが集中する理由になっています。
資金不足を補うため、住宅金融に特化した銀行を設立する計画も2025年に報じられました。
■ゲル地区の再開発
もうひとつの柱がゲル地区の再開発です。
ADB(アジア開発銀行)と政府は総額5億7,010万ドル(約900億円)の事業を進めており、うち約4億1,000万ドル(約650億円)は民間投資を見込んでいます。
計画では、環境に配慮した手頃な住宅1万戸を供給し、100ヘクタールのゲル地区を低炭素のエコ地区に再開発します。
住民が自発的に土地を交換する仕組みも導入されています。
■金融引き締めという逆風
足元では金融環境が厳しくなっています。
中央銀行は2026年8月12日の臨時会合で、政策金利を0.5ポイント引き上げて12.5%にし、預金準備率も14.5%に引き上げました。
背景には、7月の年間インフレ率が13.0%に達したことがあります。8月は12.5%にやや低下し、9月17日の会合では政策金利が据え置かれました。
経済成長は好調で、2026年上半期は前年同期比7.7%でした。
ただし中心は鉱業や運輸で、家計消費は0.5%増にとどまっています。
物価高の中で、住宅購入者の購買力には逆風が吹いています。
③住宅価格と賃料について
■住宅価格
国家統計委員会によると、2026年8月のウランバートルの新築マンションは1㎡あたり平均477万トゥグルグ(約21万円)でした。
住宅価格指数は前年同月比7.2%上昇しています。
・新築と中古: 新築は前年比5.1%上昇、中古は8.1%上昇でした。
(中古の上昇率が新築を上回っています。)
・最高値の区:スフバートル区が551万トゥグルグ(約24万円)で最高です。
・区ごとの差:ソンギノハイルハン区は前年比7.5%上昇した一方、チンゲルテイ区は11.5%下落しました。
・中古の平均:2月時点の中古アパートは1㎡あたり平均503万トゥグルグ(約22万円)でした。
新築60㎡の住戸を平均単価で買うと、約2億8,600万トゥグルグ、日本円で約1,260万円が目安です。
日本の都市部に比べれば割安ですが、現地の所得水準を考えると決して安い買い物ではありません。
■賃料
統計庁が2026年9月に初めて試験公表した賃料データ(8月分、都心6区)は次のとおりです。
・スタジオ:月140万トゥグルグ(約6.2万円)
・1ベッドルーム:月193万トゥグルグ(約8.5万円)
・2ベッドルーム: 月303万トゥグルグ(約13.3万円)
最も高いスフバートル区では1ルームで172万、3ルームで373万トゥグルグ(約16.4万円)でした。
④まとめ
2026年のモンゴルの住宅市場には、次の3つの特徴があります。
- 需要が高く、供給が不足している:都市への人口集中が続き、住宅価格指数は前年比7.2%上昇しています。
- 優遇ローンの資金が追いついていない:6%の優遇ローンやゲル地区の再開発は進んでいますが、需要に追いついていません。
- 金融環境が厳しく、地区差も大きい:インフレ率は12%台、政策金利は12.5%です。価格の動きも区によって上昇と下落に分かれています。
住宅設計の観点から見るとモンゴルでは、極寒の気候に対応した断熱・省エネ・暖房の改善が、住環境の向上の鍵だと思われます。
「ゲル地区の再開発」がさらに進めば、省エネ型住宅への需要はさらに高まると感じました。
(2)モンゴルの住宅の種類と間取りの特徴|ゲルとゲル地区の戸建てから学ぶ、寒冷地の住まいの知恵
モンゴルの住まいと聞いて、まず思い浮かぶのは「ゲル」でしょう。
一方で、首都ウランバートルでは世帯の約半数が、ゲルと戸建てが混在する「ゲル地区」で暮らしています。
ゲルは遊牧生活に適応した移動式の住まい、ゲル地区の戸建て(バイシン)は、定住化と都市化の中で自力建設されてきた住宅です。
ここでは、モンゴルの住宅の種類と戸建ての間取り・構造・暮らし方を整理し、日本の住宅との違いと、設計に生かせるヒントを解説します。
01)モンゴルの住宅の種類と間取りの特徴
■ モンゴルの住宅の種類
ゲル:
木製の組み立て式の格子壁、天窓「トーノ」、羊毛フェルトと帆布でつくる円形の住居です。解体・移動・再組立が容易で、遊牧生活に適しています。
ゲル地区の戸建て(バイシン):
ウランバートル郊外に広がる、レンガ・ブロック・木材などによる自力建設の平屋や簡易な戸建てです。敷地を高さ約2メートルの木の塀で囲み、ゲルと戸建てが同じ敷地に並ぶこともあります。
集合住宅:
都市中心部や新興住宅地のアパートで、集中暖房や上下水道を利用できるのが特徴です。
環境配慮型の新しい戸建て:
2021〜2022年にかけてEDGE認証を国内で初めて取得した、70㎡・2階建ての「サクラハウス」などがあります。
なお、ゲル地区は低密度な市街地で、水道・下水・集中暖房といったインフラが十分に整っていない地域があります。
■ ゲル地区の戸建て(バイシン)の特徴
外観:
敷地を囲む木の板塀「ハシャー(khashaa)」が特徴です。
平屋が中心で、レンガやブロック、木造の素朴な外観になっています。
寒冷な気候から、日射を取り込みやすい南側に窓を大きく取る傾向があります。
構造:
最大の課題は断熱です。断熱が不十分な住宅が多く、冬は熱損失と燃料消費が大きくなりがちです。
フェルトを重ねて断熱するゲルに対し、バイシンは壁の厚みと熱容量で寒さをしのぎます。
ただし断熱性能は低く、日本の高気密・高断熱とは対照的な「燃やして暖を取る」住まいです。
庭・中庭:
整えられた庭を持つ例は少ないものの、敷地内の空き地は、野菜づくり、燃料や資材の置き場、子どもの遊び場、来客用の駐車スペースなど、多目的に使われます。
玄関:
ゲルの入口は基本的に南向きで、定住住宅にも「南から入る」習慣が残っています。靴を脱いで上がる点も日本と共通です。
冬の冷気を防ぐため、玄関に小さな前室(緩衝空間)を設ける例が多く、日本の玄関ホールより簡素ながら、外気を二重に遮る発想は同じです。
キッチン・リビング・ダイニング:
ゲルは、調理・暖房・団らんが中央のストーブ1台に集まる「ワンルーム」です。
定住住宅でも台所と居間を一体にし、来客を迎える広い部屋を南側に置くプランが一般的で、用途ごとに細かく仕切る日本とは対照的です。
寝室・トイレ・浴室:
寝室は主室から独立した1〜2室という例が多く見られます。
ゲル地区には上下水道がないため、飲料水は給水所で確保し、入浴は公衆浴場、トイレは敷地内のピットトイレ(汲み取り式)が基本です。
トイレ・洗面・浴室を分け、追い焚き浴槽を備える日本とは、環境がまったく異なります。
一方、近年の改良型住宅では、水回りを住宅内に設け、断熱を強化し、換気や自然採光にも配慮した設計が進んでいます。
冷暖房:
中央の薪・石炭ストーブが、暖房と調理を兼ねます。
熱をレンガに蓄えて長時間放熱する高性能なストーブも普及し、−30〜−40℃の冬を支えています。
円形で表面積が小さいゲルは、実は理にかなった省エネ形状です。
環境・暮らし:
石炭燃焼による冬の大気汚染は最大の課題で、断熱改修やゲル地区の再開発が進められています。
また、増築を重ねて住まいを育てる暮らし方は、日本の昔ながらの増築文化にも通じます。
02)モンゴルの人々の暮らし方の特徴
日本の住まいの課題は、夏の蒸し暑さと地震への備えです。一方モンゴルは、氷点下30度を下回る冬への断熱と暖房が最優先になります。
暮らし方の違いも明確です。日本は個室とLDKに空間を分けますが、モンゴルは「一つの空間を多目的に使う」のが大きな特徴で、食事・団らん・勉強・仕事・睡眠を、家具や時間帯で切り替えます。
インフラにも差があります。
日本では上下水道と給湯が前提ですが、ゲル地区は給水所とピットトイレが基本です。家づくりも、日本では専門業者が建てるのに対し、ゲル地区では自力建設が主流です。
03)まとめ:日本の住宅にも応用したいこと
●暮らしの中心を、一つの多目的な場に集める:
広い主室にキッチンを一体化し、家族が自然に集まる構成は、少人数世帯や高齢者世帯が増える日本で、無理のない生活動線をつくるヒントになります。
●玄関に「緩衝空間」をつくる:
玄関土間やポーチを少し深くし、外気・泥・雨を室内に入れにくくする設計は、省エネと快適性の両面で有効です。
●「暖房を中心に家族が集まる」LDKを考える:
ゲルの円形平面、中央の暖房源、換気を兼ねた天窓という構成は、暖房効率と空間の一体感を高める伝統の知恵です。
薪ストーブやペレットストーブを中心に置き、その周囲に家族が集まる「暖炉を中心としたLDK」は、モンゴルの住まい方から学べる魅力的な提案ではないでしょうか。
参考:
- Global Property Guide「Mongolia’s Residential Real Estate Market Analysis 202
- Mongolia’s Residential Real Estate Market Analysis 2026
- モンゴル中央銀行 金融政策委員会声明(2026年8月12日)
- Sukhbaatar District tops rental charts
- IFC「First EDGE Green Building Certified House in Mongolia」(サクラハウスのEDGE認証)
- 九州大学学術情報リポジトリ「ウランバートルの都市型ゲルの居住環境改善に関する博士論文」(ゲル地区の構成・ゲルの熱損失)
- Geres「Switch Off Air Pollution(SOAP)」ファクトシート(ゲル地区の戸建ての断熱改修)
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