
「ポルトガルの住まい探訪」
最新住宅事情と間取りの秘密
「ポルトガルに家を建てたら、実際いくらかかるの?」「街並みは美しいけれど、暮らしやすさはどうなの?」。
そんな疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
今回のブログでは、2026年の最新データをもとに、ポルトガルの住宅価格や賃料、不動産市場の動向を紹介するとともに、戸建て住宅の間取りや素材、庭・中庭の使い方まで詳しく解説します。
さらに、ポルトガルの住まいから、日本の家づくりにも取り入れられる「光・風・屋外空間」のヒントも見えてきます。
(1)最新のポルトガルの不動産・住宅事情
ポルトガルは温暖な気候、穏やかな治安、比較的落ち着いた物価などから、ヨーロッパをはじめ世界中の移住者や投資家から高い人気を集めてきました。
しかし、その人気の裏で住宅価格は急騰を続け、現地の人々の住宅取得が難しくなるという深刻な問題も生じています。
ここでは、最新の統計データを基に、ポルトガルの住宅市場の現状、政府の対応、そして2026年時点での価格・賃料などを詳しく解説します。
01) ポルトガルの住宅市場、最新事情
まず、ポルトガル国立統計局(INE)が2026年6月に発表した住宅価格指数(IPHab)によると、2026年第1四半期の住宅価格は前年同期比で17.8%上昇しました。
これは欧州連合(EU)の中でも最も高い伸び率の一つであり、住宅価格の上昇が依然として続いていることを示しています。
なお、INEが個別に公表している「取引価格の中央値」ベースで見ると、同四半期の上昇率は19.8%とさらに高くなっており、統計の取り方によって伸び率の数字にはやや幅がありま。
一方、取引件数は減少傾向にあります。
INEのデータによると、2026年第1四半期の住宅取引件数は前年同期比で8.7%減少しました。価格は上がり続ける一方で、売買の件数は減っているという、少し複雑な状況です。
また、買い手の構成にも大きな変化が起きています。
2025年通年の取引のうち、ポルトガル国内の買い手が占める割合は95%に達し、2019年の統計開始以来の高水準となりました。
国内買い手による購入(161,341戸)は前年比10.1%増加しています。
一方、EU域外からの購入は17.1%減少し、EU域内の居住者による購入も9.6%減少しました。これは後述するゴールデンビザや税制優遇制度の変更が大きく影響しているとみられています。
住宅の供給不足も深刻です。
ポルトガルでは過去10年間で約30万戸の住宅が不足しているとされ、需要に見合うだけの新築供給が追いついていません。
業界団体(APPII)は、現状の年間約2万戸という新築供給ペースを、2029年までに少なくとも年間7万戸まで引き上げる必要があると警鐘を鳴らしています。
新築の着工数や建築許可件数は増加傾向にあるものの、そのベースは依然として低い水準にとどまっています。
02)ポルトガル政府の不動産における対応など
ポルトガル政府は、こうした住宅危機に対応するため、さまざまな政策を打ち出してきました。
まず、外国資本による住宅投資を抑制する動きです。2023年10月、政府は「Mais Habitação(住宅拡大)法」により、ゴールデンビザ(投資家ビザ)の対象から不動産購入と不動産ファンドへの投資を除外しました。
これにより、不動産購入を目的とした外国資本の流入は大きく減少しました。
また、外国居住者向けの優遇税制である非居住者税制(NHR)も、2024年1月から新規の申請受付を終了しました。
現在は後継制度であるIFICI(いわゆるNHR 2.0、科学研究・イノベーション人材向け税制優遇)が導入され、一定の条件を満たす専門人材には所得税20%の優遇税率が適用されています。
また、国内の若年層やファーストタイムバイヤーを支援する政策も進められています。
35歳以下の若年層が初めて住宅を購入する場合、一定の価格帯(2026年時点で最大330,539ユーロ、円換算で約6,100万円程度)までの住宅であれば、不動産譲渡税(IMT)と印紙税が免除される制度が導入されました。
この制度はすでに7万人以上の申請者に利用されています。
また、政府保証付きの住宅ローン制度も整備され、約2万3,000人の購入を支援しました(この保証制度は2026年末までに契約されたものが対象です)。
さらに、2026年3月には住宅建設を促進するための税制改革が閣議決定され(法律としての正式な施行は同年5月)、自己居住用住宅(上限約66万ユーロ)や賃貸住宅(家賃上限2,300ユーロ)の建設・改修について付加価値税(VAT)が23%から6%に引き下げられました。同時に、都市計画の許認可手続きも迅速化されています。
なお、公営住宅の整備目標については、政府は当初2030年までに約5万9,000戸という目標を掲げていましたが、2025年末には需要の大きさを踏まえてこの目標を大幅に上方修正し、2030年までに約15万戸(総投資額約90億ユーロ)に引き上げると発表しています。
03)2026年の住宅価格・賃料・利回りの実態など
実際の取引価格の中央値(INE、2026年第1四半期、1m²あたり)は以下の通りです。※円換算は2026年8月末時点の目安として1ユーロ=185円で計算しました。
購入価格の目安(INE、実際の取引価格の中央値ベース):
・全国中央値:2,337ユーロ(約43万2,000円)
・グレーター・リスボン地方:3,836ユーロ(約71万円)
・アルガルヴェ地方:3,352ユーロ(約62万円)
・ポルト都市圏:2,552ユーロ(約47万2,000円)
なお、不動産ポータルの「売り出し価格」ベースでは、リスボン都市圏で1㎡あたり5,000ユーロ超、アルガルヴェで4,500ユーロ台など、実際の成約価格よりかなり高めに示されることが多く、売り出し価格と成約価格には常にギャップがある点に注意が必要です。
物件一件あたりでは、2026年第2四半期の全国平均販売価格は325,342ユーロ(約6,019万円)程度、2026年7月時点の民間データでは全国の物件中央値は365,000ユーロ(約6,753万円)とされ、統計の取り方によって数字にはかなりの幅があります。
東京都心の新築マンション価格と比較すればまだ割安感はあるものの、「ポルトガル=激安」というイメージはすでに過去のものになりつつあると言えるでしょう。
賃料の目安:
賃料の目安(Idealista、2026年5月時点の希望賃料中央値、1m²あたり)は、
・全国16.3ユーロ(約3,016円)
・リスボン21.8ユーロ(約4,033円)
・ポルト16.4ユーロ(約3,034円)
例えばリスボン市で70m²の賃貸住宅を借りると、月額約1,526ユーロ(約28.2万円)という計算になります。
利回りの目安:
投資家の視点で重要な賃貸利回りは、2026年7月時点のあるデータで全国中央値4.95%、地域別ではセトゥーバルが5.09%と最も高く、リスボン市は3.79%と最も低くなっています(別の調査会社の集計では全国平均4.29%、セトゥーバル4.89%、リスボン3.76%と、調査主体によって若干の差があります)。
なお、フィッチ・レーティングスの予測では2026年の住宅価格はさらに15%程度上昇する可能性があるとされ、ECBの政策金利引き下げにより新規住宅ローンの平均金利も2026年4月時点で2.85%(2024年4月は3.84%)まで低下、低金利が購入需要を支える構図となっています。
2026年のポルトガル住宅市場は、価格上昇が続く一方で外国資本による投機的な需要は後退し、国内の実需が市場を支える構造へと変わりつつあります。
政府の若年層支援や住宅供給促進策により、中長期的には市場の安定化も期待されます。
(2)ポルトガル戸建て住宅のかたち――間取り・価格・日本への応用ヒント
(1)で示した市場動向を踏まえたうえで、ここでは実際にポルトガルの戸建て住宅にはどのような種類・間取りの特徴があるのか見ていきましょう。
01) ポルトガルの戸建て住宅、3つのスタイル
ポルトガルの戸建て住宅は、主に以下の3つに分類されます。
● モラディア・イゾラーダ(Moradia Isolada/独立型一戸建て):
日本でいう完全な「一戸建て住宅」です。敷地周囲が独立しており、広い庭やプライベートプールを備えた物件も多く、郊外やリゾート地(アルガルヴェ地方など)に多く分布しています。
●モラディア・ジェミナーダ(Moradia Geminada/テラスハウス・連棟式住宅):
隣家と側壁を共有して一列に並ぶ連棟式の住宅です。限られた敷地を効率的に活用できるため、都市郊外のベッドタウンで非常に主流なスタイルです。
●キンタ(Quinta/伝統的農園住宅・ヴィラ):
地方や農村部に位置する、敷地面積の広い伝統的な邸宅です。石造りの外壁やオレンジ色の瓦屋根が特徴で、リノベーションして現代的に暮らすスタイルが人気を集めています。
02)戸建て住宅の間取りの特徴
現代の郊外型戸建てでは、伝統的な意匠を踏襲しつつ、中庭を囲むように諸室を配置し、寝室ごとにプライベートな外部空間(パティオやテラス)を設ける手法や、キッチン・リビングをワンルーム化する開放的な平面計画がよく見られます。
またアルガルヴェ地方特有の屋上テラス「Açoteia」を現代住宅に再解釈する例もあります。
外観:
伝統的な住宅は厚い石造りやレンガ造りに白い漆喰塗りが基本ですが、現代住宅ではRC(鉄筋コンクリート)構造が主流です。
断熱性を兼ね備えた太い外壁と、伝統的なアズレージョ(装飾タイル)が外壁のアクセントとして美しく映えます。
構造:
石積みや厚い組積造の壁で夏の熱を遮断し、冬は保温する「厚み」が最大の特徴。日本の木造軸組と異なり、蓄熱性を活かした温熱設計が基本です。
庭・中庭:
多くの住宅にパティオ(中庭)やテラスがあり、屋内外をゆるやかにつなぐ「屋外リビング」的な存在です。日射を遮りながら通風を確保し、日本の坪庭より開放的で、食事や団らんの場として日常的に使われます。
玄関:
アーチ型の開口部が多く、玄関先にタイルの装飾やベンチを設ける例もあります。
日本のような靴を脱ぐための「土間」や段差はなく、フラットにリビングや廊下へつながります。シューズクロークよりも、美しいタイルの床やオブジェを飾るホールとしての役割が強いです。
キッチン:
独立型が主流で、テラコッタ床やアズレージョの壁タイルが定番。近年は家族や来客と会話しながら調理する、リビングと一体化したオープンキッチンも増えています。
リビング:
暖炉を備える住宅も多く、家族が集う中心的な空間。日本の和室のような多目的スペースはなく、用途がはっきり分かれています。
ダイニング:
リビングと隣接し、大人数での食事を前提とした広めのテーブルを置くのが一般的。来客をもてなす文化が間取りに反映されています。
寝室:
主寝室にウォークインクローゼットを備える住宅も増えていますが、伝統的な家では造り付け収納は少なく、日本の押入れのような大容量収納は一般的ではありません。
トイレ・浴室:
トイレと浴室は同室に配置されることが多く、日本のように独立させる文化は薄いのが特徴です。浴槽よりシャワーブースが主流で、湯船に浸かる習慣がない点も日本との大きな違いです。
03)ポルトガルの住宅価格――「戸建て住宅は庶民に手の届く価格」なのか
(1)で見た通り、既存住宅の実勢価格は全国中央値で1m²あたり2,337ユーロ、リスボンでは3,836ユーロに達しています。
では、新築で戸建てを自己建築する場合はどうでしょうか。
新築のT3(3LDK相当・約120m²)を自己建築する場合、建築費の相場は地域差が非常に大きいのが実情です。
地方部では1m²あたり約1,300ユーロ台から、都市部やアルガルヴェの高級エリアでは2,000~3,500ユーロ台まで上昇しており、労働力不足を背景に過去数年で建築費は約30%上昇しました。
120m²換算では、地方の標準的な建築で約16万~22万ユーロ(約2,960万~4,070万円)、都市部ではさらに高額になり、これに設計・許認可・仕上げなどの諸経費(建築費の3~4割程度が目安)が加わります。
一方、ポルトガルの平均月収(手取り)はおよそ1,200~1,300ユーロ(約22万~24万円)程度、中央値はそれよりやや低い水準にとどまります。
都市部の新築・既存T3住宅は平均年収の何倍にも達しており、一般的な会社員が単独で都市部の一戸建てを購入するのは容易ではありません。
結論から言うと、「都市部では非常に厳しいが、地方都市や地方の古民家リノベーション、あるいは35歳以下向けの税制優遇や政府保証付きローンといった支援策をうまく活用できれば、地方であれば手が届く」というのが現況のようです。
まとめ:日本の家づくりへのヒント
ポルトガルの戸建て住宅から、私たちが日本の家づくりに応用できるエッセンスを以下にまとめました。
- パティオ(中庭)を中心に配したプライベートなアウトドア空間
日本の狭小地や住宅密集地でも、中庭型の間取りを採用することで「道路からの視線を遮りつつ、光と風を室内奥深くまで届ける」空間づくりが可能です。
- ウチとソトをなめらかに繋ぐテラス活用
リビングと一続きになる大きな開口部と軒(またはパーゴラ)を設け、屋外にテーブルやソファを配置することで、延床面積以上の広がりを感じられる「アウトドアリビング」が実現できます。
- 素材感を生かしたインテリア(タイル・石材の活用)
アズレージョに代表されるように、水回りや玄関周りにアクセントタイルを取り入れることで、清涼感と経年変化を楽しめる上質な空間表現が可能になります。
単に部屋数を確保する日本の間取りからもう一歩、ポルトガルのように「光・風・外の空気とどう心地よく付き合うか」を取り入れることで、住まいはさらに居住性を高めるヒントになりそうです。
参考:
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