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住宅設計海外の住宅間取り

2025.08.15

「タイの住宅探訪」最新の住宅事情と伝統の高床式住宅とは

「タイの住宅探訪」
最新の住宅事情と伝統の高床式住宅とは

「観光地として有名なタイの人々の家ってどんな感じなの?」と疑問に思ったことありませんか?
東南アジアの中心・タイ王国は、熱帯モンスーン気候に属し、平均気温は30℃前後です。
日本の約1.4倍の国土に、仏教徒を中心とした温かな国民が暮らしています。
経済発展が進み、移住や投資先としても注目されるタイですが、住宅事情はどうなっているのでしょうか?
今回のブログではでは、2025年の最新住宅動向とともに、コンドミニアムやヴィラなどの多様な住宅タイプ、さらには伝統的な高床式住宅の間取りや構造の工夫までをわかりやすく紹介。タイへの移住や投資、ライフスタイルの理解にも役立つ、タイの住まいの魅力に迫ります。

 

(1)2025年 タイの最新住宅事情と多様な住宅スタイル

2025年、タイの住宅市場は2024年の停滞を乗り越え、力強い回復基調を見せています。住宅取引は前年比で約3.7%増加が見込まれ、不動産価格も全国平均で2~7%の上昇を記録しています。
特に都市部や人気観光地での値上がりが顕著で、バンコクの高級コンドミニアムやプーケットのヴィラなどは非常に堅調な動きを見せています。

■住宅市場回復の背景にある3つの要因

住宅市場の活性化には、以下の3つの要因が大きく影響しています。

【インフラ投資と経済成長】
タイ東部経済回廊(EEC)を中心とした大規模なインフラ整備が進められ、地域経済の発展とともに住宅需要が増加しています。

【法改正の動き】
外国人によるコンドミニアム所有割合の上限が49%から75%に引き上げられる見通しや、借地権の最長期間が99年に延長されるなど、外国人にとっての所有環境が整備されつつあります。

【国際的需要の継続】
中国、ロシア、ヨーロッパ、中東などからの投資家が引き続き強い関心を持ち、居住権や税制面での優遇措置がタイの不動産市場の魅力を高めています。

特に注目されるのは、プーケットやパタヤなどの高級物件市場です。
ここでは、富裕層が単なる投資目的ではなく、「洗練されたライフスタイル」を求めて移住しており、プライベートプール付きのヴィラや、デザイナーズインテリアの住まいへのニーズが急増しています。
この動きは、タイの不動産市場が従来の「価格安重視」から、「質・価値の創出」へと移行していることを示しています。

■タイの主な住宅タイプとその特徴

タイでは、ライフスタイルや地域の特性に応じて、多様な住宅スタイルが選ばれています。以下に、代表的な住宅の種類とその特徴を紹介します。

  1. コンドミニアム(Condominium)

日本の分譲マンションに近い集合住宅です。1棟の中に複数の所有者がいて、各部屋が個別に所有され、賃貸に出されることも一般的です。以下のような特徴があります。

・プール、フィットネスジム、サウナ、駐車場、24時間警備など、共用施設が充実
・都市部や交通至便なエリアに多く建てられる
・単身者や共働き夫婦に人気
・外国人も購入可能(ただし全体の49%まで)
・投資用物件としての需要も高い

  1. ヴィラ(Villa)

主にプーケットやパタヤなどのリゾート地で見られる高級戸建住宅です。以下のような設備が備わっていることが多く、富裕層や外国人に人気です。

・プライベートプール
・広々とした庭
・ハイグレードなデザイナーズインテリア
・高い賃貸利回りが期待でき、投資物件としても有望
・ライフスタイルの一環として選ばれる傾向も強くなっています。

  1. 戸建住宅(House)

タイ全体ではこの戸建住宅タイプに住む人が最も多く、シングルハウス(一戸建て)、ツインハウス(二戸一)、タウンハウス(長屋形式)の3種類に分かれます。
地方や郊外では、広い敷地にゆったりと建てられた一戸建てが主流で、家族向けとして人気です。都心部には少ないものの、郊外の住宅街ではよく見られます。
広々とした庭や、場合によってはプール付きの住宅もあり、快適な暮らしを実現できます。

  1. アパート(Apartment)

コンドミニアムに比べて家賃が安く設定されることが多く、生活コストを抑えたい人にとって非常に魅力的な選択肢です。
賃貸住宅で、以下のような特徴があります。

・建物全体が1つのオーナーや法人によって管理されている
・学生や若者、低所得層向けの低価格アパートも多い
・家具・家電付きの部屋が一般的で、すぐに住める利便性が高い
・一部には高級アパートも存在し、設備も充実

  1. 伝統的高床式住宅(Traditional Stilt House)

タイの農村部や古い集落で見られる伝統的な木造住宅です。以下のような特徴があります。

・地面から床面を高くすることで洪水を防ぎ、風通しを良くする
・急勾配の屋根はスコール対策に適している
・床下スペースは家畜飼育や作業場としても活用

現在は減少傾向にありますが、一部地域では今も日常的に使われています。
タイの高床式住宅は伝統と気候への知恵が詰まった、機能的かつ文化的な住まいです。

タイの住宅保有率は80%を超えており、多くの国民が持ち家に住んでいます。
一方で、都市化やライフスタイルの変化に伴い、集合住宅や高級住宅、伝統住宅といった多様な住まいが共存するようになっています。

2025年以降も、不動産市場の回復と制度改革、国際的な需要を背景に、タイの住宅事情はますます進化していくと見られます。
タイで住まいを選ぶ際には、ライフスタイル・居住地・目的(自住 or 投資)に応じた選択が重要になってくるでしょう。

(2)タイの高床式住宅:伝統の知恵が息づく住まいの魅力と工夫

ここでは、タイ中部に見られる伝統的な高床式住宅に焦点を当て、その特徴や空間構成について詳しく見ていきましょう。

■高床式住宅の構造と特徴

タイの高床式住宅は、熱帯モンスーン気候に対応した伝統的な住まいの形式であり、特に雨季に頻繁に発生する洪水から家屋を守るため、床を地面から2メートル以上の高さに設けているのが最大の特徴です。この高床構造によって、床下に風が通りやすくなり、自然な通気性を確保できるため、涼しさが得られます。

また、地面からの湿気を遮断することで、カビの発生を抑え、蚊やダニ、ヘビ、サソリなどの害虫・害獣の侵入も防げるため、衛生的で健康的な居住環境が維持されます。
床下のスペースは多目的に利用され、伝統的には物置や作業場、家畜小屋として、現代ではバイクや車の駐車場、さらには日陰の休憩スペースとしても活用されています。

■建築様式と屋根の工夫

この高床式住宅は「バーンソンタイ」と呼ばれ、すべて木造で造られており、床の高さは地域や洪水の程度によって40cmから2mほどと、幅があります。
屋根は熱を逃がすために高く、切妻屋根(きりづまやね)が主流で、さらに1mほどの深い庇(ひさし)が強い日差しやスコールから家屋を守る重要な役割を果たします。
かつては屋根材に「ヤーカー」というイネ科の植物を用いていましたが、現在は手軽で安価なトタンが主流です。
ただし、トタン屋根は雨音が響きやすく、熱がこもりやすいという欠点もあります。

■高床式住宅の空間構成

タイの高床式住宅は、間仕切りの少ないオープンフロアプランで、廊下のないシンプルな構成が特徴です。段差を活かした空間構成により、用途ごとに空間が分かれています。
外から奥へと向かって、主に以下の4つの空間で構成されています。

高床式住居

図は『アジアの水辺から見えてくる水の文化タイ中部の水辺の住いと暮らし』を参考に作成しました。

  1. バンダイ(階段)

地面と高床部分をつなぐ出入口です。偶数は不吉とされ、奇数段で作られることが一般的です。
大きな住宅では、正面用・勝手口用と複数設置されることもあります。

  1. チャーン(屋外テラス

階段を上がった先にある屋根のない中庭的スペースで、棟と棟をつなぐ役割を持ちます。
地面が洪水で使えなくなる事態に備えた、いわば“人工地盤”としての機能も果たします。

  1. ラビアン(居間)

チャーンより一段高く、屋根のある半屋外空間です。食事、昼寝、談話、接客など、就寝以外の生活の中心となる空間で、壁がないため風通しが良く、常に快適に過ごせます。

  1. ホンノン(寝室)

ラビアンのさらに奥にあり、壁で囲まれたプライベートな空間です。
貴重品の保管場所として使われることも多く、鍵をかける家もあります。

ホンプラ(仏間):仏教国であるタイでは、大規模住宅において、寝室の脇に仏間が設けられることがあります。ここは宗教儀式を行う際の重要な場所とされ、家族にとって精神的な支えでもあります。

これらの空間の使い方や呼び方は厳密に決まっているわけではなく、家族構成や暮らしの変化に応じて柔軟に増改築されるのが特徴です。
たとえば、屋根をかければラビアンのような居間になり、壁を設ければホンノンとしての寝室に変わる、といった具合に、機能の変更が自由に行えます。
このような柔軟性と拡張性こそが、タイの伝統的な高床式住宅が時代や環境の変化に適応しながらも、今なお地域社会に根づき、受け継がれている大きな理由のひとつです。

まとめ

タイの住宅は、都市型の洗練された住まいから、自然と共存する伝統的高床式住宅まで、多様性に満ちています。
とりわけ高床式住宅には、気候と風土に根ざした暮らしの知恵が詰まっており、単なる「古い家」ではなく、パッシブハウス(環境対応住宅)として見直す価値があると感じました。
住宅はその国の文化や価値観を映す鏡です。
タイの伝統的な住まいを知ることは、その社会の今と未来を知る手がかりでもあります。
タイへの移住や投資を考える方はもちろん、人の暮らしの在り方を考えたい人にもヒントになることでしょう。

参考: