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住宅設計海外の住宅間取り

2025.09.12

「スペインの住宅探訪」2025年市場動向と間取りの知恵

「スペインの住宅探訪」
2025年市場動向と間取りの知恵

 

情熱の国スペインと聞けば、フラメンコやガウディ建築、そして太陽に映える白壁の家を思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし、華やかな文化の裏側で、スペインは今「住宅危機」という深刻な問題に直面しています。
観光や経済成長がもたらした恩恵の一方で、住宅価格や家賃の急騰が人々の生活を圧迫しているのです。

それでは、スペインの住宅はどのような間取り・デザインで、人々の暮らしに根付いているのでしょうか。
今回のブログでは、スペインの最新の住宅事情をひも解きながら、パティオや独特の間取りといった住まいの特徴を解説します。
これを読めば、スペインの暮らしと、日本の住宅にも応用できるヒントが見つかるはずです。

(1)住宅価格も家賃も急上昇! 2025年スペインは“住宅危機”に直面

スペインの住宅市場は、2025年に入っても依然として活況を呈しており、住宅価格や賃料は都市部や観光地を中心に過去最高水準に迫っています。
経済成長や観光業の好調を背景に住宅需要が高まる一方、住宅不足や価格高騰が深刻化し、社会問題として「住宅危機」とも呼ばれる状況に発展しています。

■住宅価格と販売動向

2025年の全国平均住宅価格は前年比10.4%上昇し、1㎡あたり1,846ユーロ(約30万円)に達しました。
マドリードやバルセロナなど主要都市ではさらに高騰し、全国平均を大きく上回っています。
販売動向では、新築住宅の販売が前年比23.4%増と大きく伸び、全体に占める割合も拡大しました。一方で中古住宅の伸びは限定的で、住宅供給の偏りも課題となっています。

■賃貸市場の高騰

家を買うのが難しい人が賃貸に流れるため、賃貸価格も上昇しています。
マドリードでは70㎡で月1,250ユーロ(約20万円)、バルセロナでは1,350ユーロ(約22万円)と、いずれも前年より1割近く上がっており、所得に比べ高額な水準となっています。

■なぜ価格が上がるのか?

価格高騰の要因には、スペイン経済の成長、観光業の拡大、移民流入による需要増加があります。
しかし、オーバーツーリズムや民泊の拡大、外国人投資家の参入が住宅不足をさらに悪化させています。

■政府の対策

こうした問題を受けて、スペイン政府や自治体は動き始めています。

・非居住の外国人が住宅を購入する際には、最大100%の課税を検討。
・バルセロナでは2028年までに観光客向けの短期賃貸(民泊)を全面廃止予定。
・EUの資金を使って、建設スピードを速めた公共住宅(ソーシャル住宅)を年間15,000戸建てる計画。

これらの対策で、慢性的な住宅不足(約60万戸と推定)を解消しようとしています。

■まとめ:スペインは日本にとっての警鐘か?

スペインでは「観光が盛んで経済も元気」というプラス面が、住宅価格や家賃の高騰というマイナス面を生み出しています。オーバーツーリズムや外国人投資が拍車をかけ、政府はこれまで以上に強い規制や公共住宅の整備に踏み出さざるを得なくなっています。
日本でも観光客の急増による生活環境の変化や家賃高騰が一部で問題になっています。
スペインの事例は「観光と住環境のバランスをどう取るか」という点で、日本にとっても参考になるケースといえるでしょう。

(2)スペイン住宅:間取り・デザイン・暮らしの特徴を解説

スペインの住宅は大きく分けて、都市部に多い「アパルタメント・ピソ(集合住宅)」、郊外に建つ「カサ・シャレー(戸建住宅)」、そしてリゾート地や高級エリアに多い「ビジャ(ヴィラ)」の3タイプがあります。
特にマドリードやバルセロナなどの都市部では集合住宅が主流で、統計によると住宅の約64.6%がマンション・アパートです。これはヨーロッパでも高い水準で、スペイン人のライフスタイルを象徴しています。

■灼熱の国に適応した外観デザイン

スペインでは夏に40℃を超えることも珍しくなく、強烈な日差しへの対策が家づくりの基本です。

・厚い石壁と白い石灰の外壁で断熱と遮熱を両立。
・赤茶色のスペイン瓦で耐久性と美観を確保。
・アーチ型の玄関や窓、ロートアイアン装飾がつくる独特の外観。

これらが組み合わさり、機能性と美しさを兼ね備えたデザインとなっています。

■暮らしを彩るパティオ(中庭)の役割

スペイン住宅の大きな特徴が「パティオ(中庭)」です。
壁や窓に囲まれた空間は、夏の強烈な日差しを遮り、風を通し、涼しさを生み出します。

・タイル敷きの床と噴水で涼感を演出。
・花や樹木を配した癒しの空間。
・家族の団らんやゲストを迎える場としても活躍。

形状には、四方を囲む「ロの字型(回廊型)」と、三方を囲む「コの字型」があり、建築様式に応じて使い分けられます。

■スペイン住宅の間取りとインテリアの特徴

スペインの家は、家族の交流とプライバシーを両立する設計が特徴です。

・玄関:日本のように靴を脱ぐスペースはなく、狭いホールから直接リビングへ。

・リビング:家の中心に位置し、大きな窓や吹き抜けで開放感を演出。

・キッチン:基本は独立型でプライベートな料理空間、最近はオープンスタイルも増加。

・ダイニング:リビングやパティオに隣接し、屋内外の一体利用が可能。

・寝室:マスターベッドルームには専用バスルーム、広いクローゼットが標準。

子供部屋:コンパクトながら明るく装飾的、窓の向きによって静けさや光量が変化。

・浴室:シャワー文化が基本。バスタブは高級住宅に限られ、使用頻度も低め。

・バルコニー/テラス:物干しだけでなく、食事や集まりの社交場として重視される

■まとめ:スペイン住宅に学ぶ暮らしの知恵

スペインの住宅は、過酷な気候に対応するための工夫と、家族や人々が自然に集まる空間づくりが両立しています。
特にパティオやバルコニーは、屋内外をつなぎ、コミュニケーションを育む重要な場です。
スペイン住宅のエッセンスは、一言で言えば、「開放的で家族が集まる空間設計」と言えるのではないでしょうか。
これらの考えや意匠は、日本の住まいにも応用できるヒントとなるのではないでしょか。

参考: