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2024.12.06

未来の住まいが今ここに!3Dプリンター住宅が変える建築の常識

未来の住まいが今ここに!
3Dプリンター住宅が変える建築の常識

 

建設業界に革新をもたらす3Dプリンター住宅。
従来の建築方法を根本から覆すこの技術に、世界中が注目しています。
驚くべき低コストと短い工期、そして自由度の高いデザイン性を実現する3Dプリンター住宅とは、一体どのような仕組みで建てられるのでしょうか。
また、日本の厳しい建築基準法との整合性や耐久性など、実用化に向けた課題は解決するのでしょうか。
今回は、3Dプリンター住宅の特徴と可能性を解説します。
アメリカで実現した世界最大規模の3Dプリンター住宅街から、日本での先進的な取り組みまで、具体的な実例も紹介します。
私たちの未来の住まいづくりの新たな選択肢として、3Dプリンター住宅の可能性を探ってみましょう。

(1)3Dプリンター住宅とは?そのメリットと課題

3Dプリンター住宅とは、3Dプリンターの技術を用いて建てられた住宅を指します。
材料はモルタルやコンクリート、繊維コンクリート、ポリウレタンなどを使用し、迅速にかつ効率よく建物を作ることができ、災害発生時の仮設住宅やホームレス用の住宅としての活用を将来的に期待されています。
主に、2つの工法があります。
一つは、工場で住宅のパーツを3Dプリンターで製造した後、建設現場に運んで組み立てていく工法。もう一つは、建設現場に3Dプリンター本体を運び込み、そこでパーツを作って建築していく方法です。
メリットは「超低価格」、「短い工期」、「デザインの自由度」、「環境への配慮」などです。

1. 超低価格

従来の建築方法と比べて大幅にコストを削減できます。木材を使用しないため、ウッドショックの影響を受けず、安定した価格で提供できます。
3Dプリンター住宅の価格は、日本では約500万円程度です。
例えば日本初の2人暮らし3Dプリンター住宅「serendix50」の販売予定価格は、550万円となっています。

2. 短い工期

最短で2日間で住宅を完成させることができ、技術を持った職人に頼らずに安定した品質の家を建てられます。
3Dプリンターは常時人が見張っている必要がなく、24時間休まず稼働させることができます。
一般的に数ヶ月かかかる住宅工期を数日で完了させるこの圧倒的な工期短縮は、災害時などの仮設住宅建設などでも、とても有効な工法と言えます。

3. デザインの自由度

人の手では難しい曲線や球体などの加工も容易に実現できるため、デザインの幅が広がります。
これまで敬遠されがちだった複雑な曲線デザインも自由に設計でき、そのまま形にできるため、小さなコンセプトショップなどの用途にも利用できるでしょう。

4. 環境に優しい建築方法

3Dプリンターを活用した住宅建築は、廃材や廃棄物の発生を大幅に抑えることができます。
この技術では、必要な部分に必要な量だけ材料を使用するため、従来の建築方法に比べて大量の廃棄物が発生しにくい点が大きな特徴です。
さらに、建築工法がシンプルであることから、材料や設備の運搬に伴うCO2排出量の削減効果も期待できます。
また、3Dプリンター住宅は断熱性能が高いため、光熱費を抑えることができ、環境負荷の少ない住まいと言えるでしょう。

また、3Dプリンター住宅はメリットばかりでなく、デメリットもあります。今後はこれらを解決することで、普及の可能性が高まると言えるでしょう。
デメリットは「建築基準法に適合していない」、「耐久性の検証」、「水道、電気、ガスなどの工事が別途」などがあります。

1.  建築基準法に適合していない

多くの国で建築基準法に対応することが課題となっています。
日本の建築法では、耐震性を高めるため、コンクリート造住宅では、壁の内部に鉄骨や鉄筋を組み込む必要があります。
3Dプリンター住宅の場合、鉄骨や鉄筋を組み込んで印刷することは難しく、住宅強度の確保が課題となっています。

2. 耐久性の検証

工法自体が新しいため、長期的な耐久性や安全性についてはまだ十分な検証が必要です。
鉄筋や鉄骨を埋め込むことが難しい現状の3Dプリンターでは、日本の建築基準法をクリアできていないため、自然災害や火事などに倒壊したり、大きい損傷を受けやすいとされています。
3Dプリンター住宅の耐用年数は、従来の木造住宅よりも短い可能性が指摘されています。

3. 水道、電気、ガスなどの工事が別途

3Dプリンター住宅では、主に床、壁、天井の造形が行われますが、快適な生活に欠かせない水道、電気、ガスといったインフラ設備の構築には対応していません。これらの設備の設置には、単に配管や配線を敷設するだけでなく、各設備との接続作業、安全性の確保、そして法規制への準拠といった高度な技術と専門知識が求められます。
現時点では、3Dプリンター住宅に特化したインフラ設備の専門業者は少ないため、別途工事が必要となり、追加の費用が発生することを覚えておきましょう。

(2)アメリカと日本における3Dプリンター住宅の最新動向

 

1.アメリカにおける3Dプリンター住宅の進展

アメリカでは近年、3Dプリンター住宅の開発が加速しています。2024年9月、テキサス州ジョージタウンに世界最大規模の3Dプリンター住宅街(100戸)が完成しました。また、同州のマーファでは、世界初の3Dプリンターホテルの建設も始まっています。
ジョージタウンの住宅街は、平屋建てで広さ140~185平方メートル、価格は約6610万~8820万円と、従来の住宅より安価です。各住宅には3~4つのベッドルーム、ソーラーパネルが備わり、壁には「ラバクリート」というコンクリートミックスが使用されています。一部の住宅は既に売却済みです。

この住宅街を手がけたのは、テキサス州のスタートアップ企業アイコン(ICON)。同社は独自の3Dプリンティング技術を活用し、住宅やシェルターを建設するほか、NASAと共同で月面基地建設にも取り組んでいます。

住民からは、「厚いコンクリート壁が暑さを防いで快適」という声がある一方で、「通信環境の改善が必要」との意見もあります。
3Dプリンター住宅は、住宅不足や建設業の人手不足といった課題解決の切り札として、今後さらなる発展が期待されています。

アメリカの3Dプリンターによる住宅街

 

2. 3Dプリンター住宅は災害地再建に光をもたらすか

日本では、セレンディクス株式会社竹中工務店大林組など、3Dプリンター住宅の様々な開発が進んでいます。
10月2日の日本経済新聞の記事「能登に3Dプリンター住宅 低価格、生活再建へ一助」によると、兵庫県のセレンディクス社が石川県は能登、珠洲市に製造・販売した3Dプリンター住宅が紹介されています。
この住宅は1LDK(トイレ・風呂付き)で50平方メートル、価格は550万円(税別)。
工事期間は約2週間で、群馬、愛知、熊本の工場で製造したパーツを現場で組み立て、9月末に完成しました。

セレンディクス社の飯田国大氏は「被災者が購入可能な住宅として希望を提供したい」と述べています。現在、完成した住宅は、宿泊施設として復旧工事業者が利用するほか、週末には地元住民向けの無料宿泊や一般公開も予定されています。
この建設計画を進めた珠洲市の蔵雅博氏は「地震で倒壊した木造住宅の再建に向けた新たな選択肢として期待したい」とコメントしています。

日本ではまだ市場規模が小さいものの、3Dプリンター住宅は独自のニーズに応じた形で発展を続けています。

石川県珠洲市の3D住宅

まとめ

3Dプリンター住宅は、建築コスト軽減や施工スピードの速さ、デザインの自由度の高さから、災害復興や住宅不足の解決策として期待されています。
アメリカでは既に世界最大の3Dプリンター住宅街が完成し、日本でも被災地向けの取り組みが進むなど、実用化が加速しています。一方、耐久性や建築基準法の課題、水道や電気などインフラ設備の対応など、解決すべき点も多く残っています。
3Dプリンター住宅は、これらの課題を克服することで社会的なニーズに応える新たな住宅の選択肢となるでしょう。

 

参考: