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2025.05.02

大阪万博が描く未来の住宅 テクノロジーが切り拓く新しい暮らしの形

大阪万博が描く未来の住宅
テクノロジーが切り拓く新しい暮らしの形

 

2025大阪・関西万博(以後大阪万博)は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、様々な分野における未来社会のあり方を提示することを目指す国際博覧会です。
その中でも、”住まい”は人々の生活の基盤であり、未来社会を考える上で欠かせない要素の一つです。
今回は、大阪万博において「未来の住宅」をテーマとした4つのパビリオンに注目し、それぞれの概要と「未来の住宅」のポイントとなる展示内容について解説します。
取り上げたパビリオンでは、最新技術の導入や持続可能な社会への貢献、そして人々の健康と幸福の追求といった、未来の住宅に関する多様なビジョンが展示されています。
これらのパビリオンを通じて、未来の住まいがどのように進化していくのか、一緒に探っていきましょう。

01. 飯田グループ×大阪公立大学共同出展館:「ただいま / TADAIMA」

このパビリオンは「サステナブル・メビウス」をテーマに、未来の住宅と都市の在り方を探求するが中心のコンセプトとなっています。
外観は西陣織を用いたユニークなデザインで、伝統と先進技術の融合を象徴しています。
内部では、人工光合成技術を活用したエネルギー供給システムや、健康を重視した「ウエルネス・スマートハウス」のデモンストレーションが行われています。
また、中心にある巨大なジオラマ「ウエルネススマートシティ」を通じて、持続可能な未来都市のビジョンを体感できます。

【主な展示内容】

■未来都市「ウエルネススマートシティ」

パビリオンの中央には、長径24メートル、短径15メートルにも及ぶ巨大なジオラマが設置され、飯田グループが考える未来都市の姿が具現化されています。
このジオラマには、大阪公立大学との共同研究によって開発された技術が搭載されており、来場者は未来の都市生活を具体的にイメージすることができます。
大型モニターを通じて解説映像が上映され、その臨場感あふれる映像体験は、ジオラマの世界への没入感を高めます。
この「ウエルネススマートシティ」というコンセプトは、今後の都市計画において、単なる効率性だけでなく、住民の健康と幸福を積極的に考慮する方向性を示しています。
テクノロジーを活用し、都市環境そのものが人々の心身の健康をサポートする未来のあり方が見えてきます。

■人工光合成技術住宅

未来の住宅におけるエネルギーの自給自足の鍵となるのが、二酸化炭素を活用したエネルギー創出を目指す「人工光合成技術」です 。
この展示では、人工光合成の仕組みが、植物が行う自然の光合成との違いを明確に示しながら、子供から大人まで視覚的に楽しく学べるように工夫されています。
実際の人工光合成装置や、その実証実験の様子を捉えた映像も公開され、最先端の研究の現況を垣間見ることができます。

人工光合成技術は、住宅におけるエネルギー革命の可能性を示し、将来的に各家庭がCO2を資源としてエネルギーを生成し、外部からのエネルギー供給への依存度を大幅に低減できる未来を展望できます。

■ウエルネス・スマートハウス

生活空間において未病維持に繋げるための未来の住宅「ウエルネス・スマートハウス」が展示されます。
パビリオン内には、実際に「家」の一部が再現され、健康に暮らすための未来住宅の仕組みを体験することができます。
これは、単なるスマートホームという概念を超え、居住者の健康状態を常にモニタリングし、それに基づいて住環境を最適化することで、病気の予防や健康増進を目指す住宅です。

例えば、室内の温湿度や空気清浄度を自動で調整したり、居住者の睡眠状態を分析して最適な睡眠環境を提供する機能が考えられます。
このような住宅は、高齢化が進む社会において、人々の健康寿命の延伸に大きく貢献するでしょう。

参考:
TADAIMA ただいま どんなに時代が変わっても、そのひとことの価値は変わらない

02. エア・ウォーターの「ネオライフスタイルLDK」

エア・ウォーターが出展する「ネオライフスタイルLDK」は、2050年の未来の暮らしを体験できるリビング・ダイニング・キッチン(LDK)のコンセプトモデルです。
ますます多様化する未来の人々のライフスタイルに対応し、その日の健康データや気分に基づいて食事を自動で調理するキッチンや、AIによるパーソナル運動サポートなど、近未来的機能が搭載されています。

また、「ネオライフスタイルLDK」は地球上で循環するエネルギーを活用することで、環境に優しく快適な生活を送ることを目指しており、自分らしい暮らしを送るだけで地球と人の健康に貢献できるという、新しいライフスタイルのあり方を提案しています。

この展示は、大阪ヘルスケアパビリオン内の「未来都市」エリア、「リボーン体験ルート」の一部として位置づけられています。

【3つのゾーンで構成される「ネオライフスタイルLDK」】

■リビングゾーン

このゾーンでは、自然なセンシング技術を活用し、自身の体調や状態に応じた安全で楽しい運動を体験することができます。
内蔵されたセンサーとAIが、来場者の動きを認識し、適切な運動プログラムを提供したり、運動中の姿勢をサポートしたりすることが想定されます。
また、映像と音による癒し効果を個別にカスタマイズしたリラクゼーション体験も提供され、心身のリフレッシュを促します。
これは、テクノロジーが日常生活にシームレスに統合され、個人の健康維持と増進をサポートする未来を示しています。

■キッチンゾーン

ここでは、健康への関心やその時の気分に合わせて、新鮮な素材を使って自動で調理される「ミライの食事」を映像体験として楽しむことができます。
提供される食事は、来場者の健康状態や気分に関する情報に基づいてパーソナライズされたメニューとなっており、一人ひとりに寄り添った体験を演出します。
ただし、実際の食事の提供はなく、あくまで未来の食卓のあり方を映像で体験する形式となっています。
これは、AIとロボット技術が進化し、個人の健康状態や好みに合わせた食事を自動で準備してくれる未来の食生活を垣間見ることができます。

■ウィンドウゾーン

ここは身近な場所でエネルギーが循環し、自然環境と調和する「ミライの暮らし」を表現するゾーンです。
2050年の大阪を舞台に、持続可能な社会への可能性が示され、工場や車両から排出されたCO2が回収され、エネルギーとして再利用されるシーンや、廃棄物をエネルギーに変換し、家庭のエネルギーやロケット燃料などとして利用されるシーンが描かれています。
これは、資源の有効活用とエネルギーの地産地消が進み、環境負荷を低減した持続可能な社会が実現する未来像を示しています。

参考:
2025年大阪・関西万博 「大阪ヘルスケアパビリオン」
当社出展の『ネオライフスタイルLDK』『AIR WATER NEO MIX STAND』を初公開

03. LIXILパビリオン

LIXILパビリオンは、人々の暮らしの質の向上と地球環境の未来への貢献という、LIXIL社のグローバルなミッションを体現する展示を行っています。
住宅および建築材料のリーディングカンパニーとして、LIXILは革新的な製品と技術を通じて、日々の生活における課題解決を表現しています。
大阪万博においては、サプライヤーとして様々なパビリオンや施設に製品を提供しており、持続可能性と循環型経済に重点を置いた製品開発への取り組みを紹介しています。

【主な展示内容】

■「EARTH MART」パビリオンへの循環型素材「レビア」の提供

LIXILは、大阪・関西万博のテーマ事業であるシグネチャーパビリオンの一つ、「EARTH MART(テーマ:いのちをつむぐ)」の外構歩道に、舗装材「レビアペイブ」を提供しています。
この「レビアペイブ」は、廃プラスチックと廃木材を融合した循環型素材「レビア」から作られており、廃棄物処理に伴うCO2の排出量の削減に貢献します。

特に、「レビア」は、従来リサイクルが困難であった様々な種類の廃プラスチックを、分別することなく一括で再資源化できる技術を用いて製造されています。
使用済みの「レビアペイブ」は、再び「レビア」としてリサイクル可能な循環型素材です。スーパーマーケットをモチーフとした「EARTH MART」パビリオン自体も、解体後に堆肥や飼料として利用できる茅葺き屋根を採用するなど、循環を象徴する素材で構成されており、「レビアペイブ」の採用は、パビリオンのテーマと深く共鳴しています。

■スマートホームシステム「Life Assist2」の体験展示

経済産業省の採択事業であるスマートホームシステム「Life Assist2」を活用した、パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)のユースケース「もっとグッスリ(More IoT for good sleep)」が、EXPOメッセ「WASSE」にて期間限定(6月21日~29日)で、体験展示されます。

これは、株式会社FiNC Technologiesの「FiNCアプリ」と沢井製薬株式会社の「SaluDiアプリ」で記録された個人の健康記録を活用し、「Life Assist2」アプリを通じて、入浴から入眠、睡眠中、起床時という一連の流れの中で、適切な情報や環境を提供するものです。
部屋を模した睡眠ブース内のベッドで横になり、短時間の疑似的な睡眠体験を通じて、スマートホーム技術が睡眠の質向上にいかに貢献できるかを体験できます。

参考:
2025年大阪・関西万博に、LIXILのイノベーティブな4製品が登場

04. 森になる建築:竹中工務店

竹中工務店が提案する「森になる建築」は、大阪万博の会場内「大地の広場」に設置された休憩所としてある仮設建築です。
この建築の最大の特徴は、最先端の3Dプリント技術と手づくりの技を融合させた、環境に配慮した新しい建築の形を提案にあります。
具体的には、植物由来の生分解性樹脂を3Dプリンターで成形し、外装にはワークショップなどで制作された種入りの紙を使用しています。
この建築は万博での役割を終えた後は、微生物によって分解され、最終的には土に還り、植物が育って森になるという、斬新なライフサイクルを持つことがコンセプトとなっています。

これは、従来のスクラップ&ビルド型の建築とは一線を画しており、地球の循環と建築のあり方を再考する試みと言えるでしょう。
材料開発、3Dプリント技術、そして市民参加型のワークショップなど、様々な分野の専門家や一般の人々との協働によって実現されました

このユニークなコンセプトと技術が評価され、生分解性樹脂を構造材として一体造形した世界最大の3Dプリント建築として、ギネス世界記録にも認定されました。

【主な建築素材】

「森になる建築」の主要な構造体は、植物由来で生分解性を持つ酢酸セルロース樹脂(CAFBLOR)を3Dプリントして作られています。
この透明な樹脂でできた構造体は、太陽光や木漏れ日を透過し、内部に自然な明るさをもたらします。
外装には、日本の草木の種を漉き込んだ手漉きの紙「Seeds Paper」が使用されています。この紙は、福祉作業所での製作や、一般の人々が参加するワークショップを通じて作られました。
ワークショップでは、牛乳パックや古新聞などのリサイクル素材が活用され、参加者は自ら紙を漉き、種を漉き込むことで、建築の一部となる素材を作り上げます。

【コンセプトとなったライフサイクル】

この建築の根底にあるのは、従来の建築の「寿命」という概念を、地球の自然な循環と人との関わりの中で捉え直すところにあります。
従来のスクラップ&ビルドという考え方から脱却し、建築が最終的に自然に還り、森の一部となる未来を目指しています。

大阪万博終了後、「森になる建築」は竹中工務店の研修所がある清和台の森に移設される予定で、外装の紙に漉き込まれた清和台の森の種から植物が芽吹き、時間をかけて土に還っていくという壮大なビジョンが描かれています。
会期中には、紙漉きワークショップなどのイベントも開催され、来場者が建築の制作過程に触れ、より深い愛着を持てるような工夫がなされています。

【協働開発】

「森になる建築」の実現には、多くの企業や研究機関が協力しています。
植物由来の樹脂素材である酢酸セルロース(CAFBLOR)は株式会社ダイセルが開発・提供しています。
3Dプリント機材はエス.ラボ株式会社が提供しています。
株式会社ニフコは部品開発・提供を担当し、阪神園芸株式会社は植栽技術の開発・提供を行っています。
さらに、兵庫県立人と自然の博物館が仕上げ材の開発と植栽指導に協力し、大和板紙株式会社は再生パルプを提供しています。
このような多様な分野の専門家との連携、協働開発によって、世界初の試みとなる木由来の光を透過する樹脂による3Dプリント建築が実現したのです。

参考:
森になる建築 Foresting Architecture

まとめ

大阪万博で展示される「未来の住宅」をテーマとした様々なパビリオンは、それぞれ独自の視点から近未来の住まいの可能性を提示しています。

飯田グループと大阪公立大学の共同出展館では、健康とテクノロジーが融合した都市生活と、伝統技術を革新した建築美を提案しています。
エア・ウォーターの「ネオライフスタイルLDK」は、AIや持続可能なエネルギーを活用し、快適で環境に優しい暮らしを描き出しています。
LIXILパビリオンでは、リサイクル素材の活用や省エネ技術を通じて、地球環境への貢献と生活の質向上を両立させる製品が紹介しています。
竹中工務店の「森になる建築」は、建築物のライフサイクル全体を見据え、自然と調和する究極のサステナブル建築の可能性を提示しています。

これらパビリオンに共通するのは、健康とテクノロジーの融合、持続可能性と循環型経済への注力、伝統と革新の融合、そして個々のニーズに応じたパーソナライズされた未来の住空間です。
大阪万博は、このような革新的なアイデアを紹介する重要なプラットフォームとなり、未来の住宅のあり方を考える貴重な機会となっています。